沖縄県で初の人間国宝、金城次郎。その魅力とは?

その独特な風合いと柔らかなフォルムで私たちを魅了する「やちむん」。「やちむん」とは、沖縄の言葉で焼物のこと。沖縄料理だけではなく、様々な料理に合う「やちむん」は器好きにも人気です。そんな「やちむん」を語る上で知っておきたいのが琉球陶器の名匠「金城次郎」です。沖縄県で初の人間国宝になった人物で、魚のモチーフが代表的なことから、県内では「魚紋の次郎」さんとしてよく知られています。

そんな金城次郎氏の仕事を紹介する美術館「金城次郎館」が沖縄県南城市に2023年2月にオープンしました。今回は「金城次郎館」の館長である松井健氏(以下松井氏)に次郎氏の思い出や作品の魅力をインタビューしたので、次郎氏の紹介と共にお届けします。

人間国宝、金城次郎氏とは

沖縄県那覇市に生まれた金城次郎氏は、陶芸の世界に幼い頃から触れ、その才能を天性のものとして花開かせました。壺屋焼の伝統に囲まれながら、彼の作品はその独自性と美しさで人々の心を魅了しました。壺屋の窯が近くにあり、幼少期から壺屋焼と親しむ環境で育ったため、その豊かな経験と感性をもとに、陶芸の道へと進みました。

10代の頃より壺屋の名工・新垣栄徳の元で見習いとして学びました。彼は壺屋焼の技法や伝統を吸収しながらも、常に新しい表現を模索しました。太平洋戦争の影響で作陶活動を中断するものの、その後の戦後復興期には壺屋に自らの工房を開き、独立しました。

次郎氏の作風は、日常生活の中の美を追求する民芸運動の思想と合致しました。浜田庄司氏や河井寛次郎氏などの陶芸の巨匠からの指導を受けながら、独自のスタイルと技法を磨き上げました。彼の作品は、単なる道具ではなく、美しさと実用性が融合した芸術品として広く評価されました。

その才能と努力が実を結び、1985年に氏は重要無形文化財(人間国宝)「琉球陶器」の保持者に認定されました。壺屋焼の伝統を尊重しながらも、独自のアプローチとユニークなデザインが融合した作品は、日本の陶芸界における重要な遺産となりました。

特に、海をテーマにした魚や海老といった動物モチーフを特に好んで描きました。これらのモチーフは、彼の作品の中で独自の躍動感と生命力を放ち、自然の美しさを表現しています。

金城次郎氏、その人間像とは

ここからはさらに金城次郎氏について深く知っていただくために、「金城次郎館」の館長インタビューを紹介します。

――金城次郎氏のエピソードで印象に残っていることを教えてください。

松井氏 この写真が次郎さんの写真ですが、人間国宝になってからも変わらない、ほとんどこんな感じでした。毎朝4時半頃に起きて、ずっと夕方暗くなるまで仕事していました。昼寝をちょっと、1時間くらいするんですが、それ以外はずっと働きっぱなし。夕方ですね、仕事終わるとシャワー室のようなところで水を浴びて猿股だけの姿で出てくるのです。その時僕、ビックリしたんですが非常に満足そうな感じなんです。顔つきが「今日も仕事ちゃんとした」というようなとても満ち足りた顔をして家の方に帰られたのを覚えています。それくらい仕事の好きな人でした。

――金城次郎氏の作品の魅力を教えてください。

松井氏 おうちが非常に貧乏だったものですから、簡単にいえば、口減らしというか食費を減らすために、14歳の時に壺屋で住み込みで働くようになって、それからずっと自分の独力で技術を身につけていった人です。彼が若い頃は、今のような研修とか教育とかそういうものはありませんから、誰も教えてくれないんです。だから先輩がろくろを使い終わると、ろくろの前に行って、そこで勉強して、自分で独学でろくろも学んだそうです。あらゆるもの、技術とか技法とかの全てを身体から覚えたのです。それがほかの人たちと随分違うところですね。次郎さんはものすごく自由に、早く作品を作るんです。けれども決して変なものは作らないという。これが次郎さんの一番素晴らしいところだと思います。

――松井さんからみて、金城次郎氏の技術が優れている点はどんなところですか?

松井氏 沖縄の焼き物というのは本州の焼き物とはちょっと違いまして、赤土でやるんですね。赤土というのは焼くと真っ黒になるので、食品を乗せた時に美味しくなさそうになってしまう。だから赤土で作ったものを一回白土で浸けて、「白化粧」というのですが、白くする。その上に模様を作るのですから、手間が非常にかかります。それから、赤土の粘土はとても柔らかいので、ろくろで挽いてもすぐ広がってしまうんです。どういうことかというと、皿を作ろうと思って、皿を形作ると、広がってベタっとなってしまう。なので皿を作ろうとするなら、鉢のように縁を立てたものを作る。そしてだんだん広がって固まって皿になるようにする。それは口で言ってできるもんじゃないんですね。その作業のことを身体で覚えてないとできない。そういう意味で、次郎さんの仕事というのは努力と身体で覚えたもので、そこが非常に優れたところだと思います。

――館内で特におすすめの作品があれば教えてください。

松井氏 魚紋(魚柄)の大きなお皿です。この魚の色は茶色っぽい色をしていますが、白化粧したところに赤土を水で溶いたもので魚の絵と縁を描いて、その後で削って焼いています。普通の読谷時代の作品は削ってから色出しをするんですけれど、これは全く逆の方法でやってるわけです。この作品は私たちの持っているたくさんの作品群の中でも、たった一点だけです。他にはありません。どういうことかというと、次郎さんはいろんな手法を独自にやってテストしてるということです。この手法は決して簡単なものではないらしく、模様の土が白化粧の上からはがれてしまったりしないように焼いている作品でして、とても珍しいものです。

おそらく世界中で探しても一点しかないだろうと思います。先にも述べましたが次郎さんは毎朝4時半くらいの暗いうちから起きて夜暗くなるまで仕事をすることを、ずっと人間国宝になってからもやった人です。この作品は彼の努力というか、実験精神がよく表れている作品なので紹介しました。

<DATA>
金城次郎館 https://www.kinjojirokan.com/
〒901-1515 沖縄県南城市知念山里71-1
日曜12:00~17:00のみ開館
入館料1500円
Tel/Fax 098-861-6690

Photo:Hayato Tamura

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