「伊賀焼」とは? 特徴や魅力、窯元や陶器市情報

伊賀焼の起源と歴史的変遷

伊賀焼は、日本の陶磁器文化において重要な位置を占める伝統的な焼き物です。その歴史は古く、約400万年前、現在の琵琶湖の位置にあたる場所に存在していたといわれる古琵琶湖の隆起に起源を持っています。古琵琶湖層から採掘される粘土が、伊賀焼の焼成特性に影響を与え、独特のポーラス(多孔質)な焼き物が生まれる基盤となっています。この特徴的な焼成特性は、約1200年前の天平年間(729~749)に始まる伊賀焼の歴史に大きな影響を与えました。

当時、伊賀地域は豊かな赤松の森林と陶土が存在し、これらの資源が陶器の制作に適していました。農民たちは農業用の種壺や生活雑器を焼くことを通じて、伊賀焼の基礎を築いていきました。この地域で得られる陶土は、高温で焼成される際に化石が燃え尽き、多孔質な焼き物ができる特性を持っており、これが伊賀焼の焼き物の特異な外観となる要因となりました。

伊賀焼は奈良時代には既にその存在が認識されており、伊勢の皇大神宮への献上の記録が残っています。しかし、特に室町時代末期には陶工たちの専門業化が進み、太郎太夫や次郎太夫といった陶工たちが活躍し、伊賀焼の技術と美意識を発展させました。

その後、桃山時代には筒井定次や藤堂高虎などの支援のもと、古田織部などの陶芸家たちが協力して古伊賀と呼ばれる雅致ある作品が制作されました。伊賀焼は茶の湯との結びつきも強く、その美意識が高く評価されました。

時が流れ、宝暦年間には瀬戸の陶工たちによって釉薬の技術がもたらされ、伊賀焼は再び脚光を浴びました。明和から文化年間にかけて、伊賀藩主の支援のもと、多くの名品が制作されました。さらに、耐火性や耐熱性に優れた伊賀の陶土を利用して土鍋や行平といった厨房具が生産され、幅広い需要を満たす一翼を担いました。

伊賀焼の魅力

伊賀焼の魅力は、その独自の美意識と風合いにあります。古来から伝わる伊賀焼の伝統は、土や釉薬、装飾の技法を通じて織り成されており、その魅力は次のような要素によって形成されています。

自然の素材感と質朴さ:
伊賀焼は土に小石が混じることで、素朴な風合いが生まれます。これにより、自然の素材感が陶器に表現され、温かみや質朴さを感じることができます。この質朴さが、日常の生活に自然な馴染みを持たせてくれます。

独自のデザイン性と表情:
伊賀焼は山手道や格子状の文様といった独特の装飾が施され、陶器の表面に立体感や模様が生まれます。

耳と形状の工夫:
伊賀焼の特徴である「耳」は、陶器の実用性とデザイン性を融合させた重要な要素です。耳を施すことで、器の持ちやすさや使い勝手が向上し、同時に陶器の造形にアクセントを加えます。また、意図的なゆがみやへこみの工夫によって、陶器の形状が生き生きとした魅力を持ち、飽きのこない美しさが実現されます。

独自の色彩と趣深さ:
焼成の過程で生まれる緑色のビードロや焦げ、釉薬の変化が、伊賀焼の陶器に独特の色彩と趣深さをもたらします。これらの色彩の変化は、陶器の表面に遊び心や独特の雰囲気を与え、食事や日常の中で楽しむことができます。

伊賀焼の魅力は、土や釉薬、デザイン、形状、装飾の要素が組み合わさって生まれるものです。その独自の美意識が、日本の美しい文化や自然との調和を感じさせ、陶器そのものが心に響く存在となっています。伊賀焼は、食卓や生活空間において、個性的で温かな雰囲気を提供し、多くの人々の心を惹きつけてやみません。

伊賀に耳あり、信楽に耳なし

「伊賀に耳あり、信楽に耳なし」という言葉は、伊賀焼と信楽焼の特徴的な違いを示すために用いられる表現です。この言葉には、陶器の取っ手や装飾部分を指す「耳」が焼き物の造形に与える影響が反映されています。こうした違いは室町時代から始まり、伊賀焼と信楽焼の個性的な発展を表しています。

室町時代以前は、日本の焼き物には大きな地域的な差異はありませんでした。しかし、室町時代になると、産地ごとに形や装飾の特徴が生まれるようになりました。この時期になると、陶器の耳(取っ手や装飾部分)においても、産地ごとに異なるアプローチが取られるようになりました。

伊賀焼は耳を重要なデザイン要素として取り入れ、耳付きの器が多く見られます。耳のデザインや配置が器の持ちやすさやデザインのアクセントとなる一方、信楽焼は耳を持たずにシンプルな造形を追求しました。

伊賀焼の代表的な窯元

長谷園:
長谷園は、天保3年(1832年)に創業された伊賀焼の老舗窯元です。ご飯専用の土鍋「かまどさん」が大ヒット商品になりました。こちらでは、日本最大の16連房の旧登り窯や大正建築の旧事務所を見学することができます。資料館や展示室では、伊賀焼の魅力を堪能することができます。毎年5月の2・3・4日には「窯出し市」が開催され、多くの人々が訪れます。伝統の技術は若い陶工たちにも受け継がれており、陶芸体験も楽しむことができます。

向開窯:
向開窯は、伊賀焼の発祥地である丸柱の窯元です。伝統的なスタイルの作品だけでなく、現代的なデザインの器も多数展示されており、伊賀焼の中でも異色の作品に出会うことができます。

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三田窯:
三田窯は、JR伊賀上野駅から徒歩約5分の場所にある窯元で、谷本景氏の窯です。景氏は「耳付花入」などの古典的な作品だけでなく、独自の造形美を追求する伊賀焼を代表する作家の一人です。

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三軒窯:
三軒窯は広い敷地に7基の穴窯と工房、展示室を持ち、伝統的な技法を守りつつ自由な発想で制作を行う新歓嗣氏の窯です。陶芸教室も開催されており、穴窯を使用した本格的な伊賀焼作りを体験することができます。

西山窯:
西山窯は、伊賀焼の代表的な作家である坂本瀧山の窯です。古伊賀の伝統的技法である「焼締」にこだわり、作品を高温で繰り返し焼くことで、自然釉の美しい景色を作り上げています。

伊賀焼の陶器市ー伊賀焼陶器まつり

「伊賀焼陶器まつり」は、毎年行われる伊賀焼の魅力を広めるイベントで、青年陶器研究会が昭和53年にスタートさせました。伊賀市内で開催され、県内外から多くの陶器愛好家や一般の来場者が訪れます。このイベントでは、個性的な陶芸家の作品や限定品が展示・販売され、伊賀焼の多様な表現が楽しめます。また、陶芸体験や作家との交流の機会も提供されており、伊賀焼の創造過程に触れることができます。年々来場者数が増加し、平成20年には2万人以上の来場者が訪れる大規模なイベントとなっています。

まとめ

伊賀焼は日本の陶磁器の一大ジャンルとして、その独自性と魅力を誇っています。丈夫な焼き物なのでご飯を炊くなどの調理に使ったり、普段使いの器として取り入れてみてはいかがでしょうか。

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