季節と食卓(10月 神無月)

神無月  重陽 〜旧暦を愉しむ

日本の年中行事の根底には、中国の陰陽五行思想があります。「この世の全ては『陰』と『陽』に分けられ、その二つの気の消長により森羅万象の調和が成り立っている」という陰陽説において、奇数は「陽」、偶数は「陰」とされています。陽の数が重なる日には、縁起の良いめでたい日であることを祝うと同時に、偶数が重なることで奇数になることから、不吉な「陰」のことが起こることを恐れ、邪気を祓い無病息災を祈る節会が行われていました。それが奈良・平安時代に日本に伝わると、宮中の雅な催しに取り入れられ、その後、農耕民族に伝わる古来信仰の祭礼や風習と習合し、季節の行事として定着します。江戸時代に幕府が公的な祝日として「五節供」を定めたことで、更に庶民の暮らしの中に根付いていきました。(陽数の重なる日のうち、1月1日の元日は別格とし、その代わりに1月7日の人日が五節供に指定されました。)



その五節供を締めくくるのは、最大陽数が重なる9月9日の重陽です。平安の貴族たちは、当時中国から伝来したばかりの珍しい花だった菊を鑑賞し、菊の花を漬け込んだ酒を酌み交わす宴を開いて、無病息災と長寿を願いました。菊は邪気を払う力をもつ霊草と信じられ、菊の力で長寿や不老不死を手にいれたという「菊水伝説」や「菊慈童」の故事も伝わっっていたからです。
1月7日は人の日、3月3日の上巳と5月5日の端午は子供の成長と幸せを祈る節供、七夕の星合伝説は大人の男女の愛、そして重陽は長寿を願う節供。五節供は、季節の流れと重ね合わせて見事に人の一生をなぞっています。先人の思慮の奥深さに心服の念を禁じ得ません。

ところで、元々旧暦の行事である節供を新暦の日付にそのまま当てはめると、季節のずれが生じ何かしっくりこないことがあります。例えば七夕は新暦では梅雨の時期に当たり、なかなか織姫と彦星の逢瀬が叶わないのは残念なことです。2023年の旧暦の9月9日は10月23日に当たります。露地の秋菊が満開を迎え、各地で大輪の菊の品評会も開催される頃。江戸時代から重陽には栗ご飯を食べる風習が始まりましたが、9月9日には少し早かった栗も豊富に店頭に並んでいます。古の人が感じた季節やその時の思いに心を寄せて、旧暦で年中行事を愉しむのも良いものです。

【今月の寄物陳思】

「菊の節句」とも呼ばれる重陽の日は、菊の花、菊を使ったお料理、菊を模った和菓子、菊酒、菊座瓜、菊をモチーフにした器や掛け軸など、「菊尽くし」のしつらえで長寿を願います。「尽くす」ということは、尽くしても尽くしきれない長寿への願い、「生きる」ということへの強い気持ちが込められているとも言われています。

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