季節と食卓(12月 師走)

師走 冬至

十二月は「冬至」を取り上げてみたいと思います。ご存知のとおり、北半球において一年のうちで昼が一番短い日が冬至です。冬に向け次第に短くなってきた昼が、この日を境にまた長くなっていく。つまり、勢いの弱まってきた太陽が再び力を取り戻す日ともいえます。このことから、冬至は「陰極まって陽に転ずる日」とされ、「一陽来復(いちようらいふく)」とも呼ばれています。

ところで、民俗学者の柳田國男は、時間論をともなう日本人の伝統的な世界観として「ハレとケ」という概念を唱えました。「ハレ(晴)」は正月・節句・お盆といった年中行事、七五三や冠婚葬祭といった人生儀礼など、非日常的な行事が行われている時間や空間をさします。一方「ケ(褻)」は、普段の生活そのものです。非日常であるハレの日は、単調で怠惰になりがちなケの生活に、変化とケジメ(気締め)をつける意味があり、古来日本には、このハレとケの循環の中に稲作を礎とする民族生活があったと指摘しています。

新年、誕生日、入学式・・、このようなハレの日に、「今日からリスタート。気持ちを新たに頑張ろう。」と思うものの、ケの毎日の中でいつのまにかその意気が枯れてしまい・・・。そのような経験は誰もがあることでしょう。気持ちに張りを持ち続けるのはなかなか大変なことです。日本の暦には、たくさんの節目の日があります。このハレの日をケジメの日(=気を引き締める日)として活用すれば、生活をよりよいリズムに変えていくことができるのではないでしょうか。

その中でも、陰極まって陽に転ずる「冬至」は、この日を起点に上昇運に乗っていくという意味合いから、気持ちの切り替えには最適な節目の日と言えるでしょう。

冬至には南京、隠元、銀杏、金柑、寒天、饂飩など、名前に「ん」のつくものをお供えする「運盛り」という風習があります「ん」という音の響きに「運が上がりますように」という祈りを込めた寄物陳思のひとつです。お供えをした後はお下がりをいただきます。また、柚子湯に入るのは、冬至が湯治に繋がり、柚子の黄色や強い香りに邪気を祓う効果があると言われているからです。運盛りや柚子の音や色に、厄除と無病息災の祈りを込めているわけですが、単なる語呂合わせではありません。

かぼちゃ(南京)は、ビタミンAやカロチンを多く含んでいるので、寒い冬を乗り切るための栄養源としても最適な食品です。また、柚子の保温・保湿効果は風邪やあかぎれの予防につながります。栄養学的にも、医学的にも、ちゃんと理にかなっているのです。

このように、それぞれの習わしの由来やそこに込められた思いを知ると、その時その時を生きていくための知恵が、季節の行事に見事なまでにしっかりと落とし込まれていることに驚かされます。その先人の知恵の結晶である年中行事を節目の日とし、季節の移り変わりと共に愉しみ、継承していく。そんな日本であり続けたいものだと心から願っています。

【今月の寄物陳思】

・蛇の皮が貼られた三線(さんしん)も「ん」が付きます。蛇といえば脱皮。冬至の日から回復していく太陽の力の再生力を想起させます。
・一陽来福のお札は「一陽来復」転じて「一陽と共に福もかえり来る」という思いが込められています。

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