「大堀相馬焼」とは? 特徴や魅力、窯元や陶器市情報

大堀相馬焼の起源と歴史的変遷

大堀相馬焼は、江戸時代の元禄年間(17世紀末から18世紀初頭)に相馬藩領の大堀村で始まった陶器産業です。この地域は当時、土地の性質から農作業には適さず、住民は山畑を開墾して煙草などの作物を栽培して生計を立てていました。そんな中、大堀村の在郷給人(武士や特権階級の農家や商人に与えられた身分)である半谷休閑(はんがい・きゅうかん)は、自身の下僕である左馬(さま)の陶芸技術を見込み、地元でとれる陶土を使用して茶碗を作り、それに駒絵を描いて販売しました。

元禄3年(1690年)、左馬は相馬中村城下で相馬藩の窯元である田代窯の陶工として技術を習得しました。その後、左馬は大堀村に戻り、隣村の井手村美森で陶土を発見し、茶碗の焼成に成功しました。この成功を受けて、半谷休閑は大堀村の親戚や在郷給人に陶芸技術を伝授し、大堀相馬焼を村の主要産業として発展させました。

相馬藩も相馬焼を藩の産業と位置付け、在郷給人の俸禄を補うためにも支援しました。その結果、大堀相馬焼は隣村を含めた広域で生産が行われ、江戸末期には東北一の大窯業地帯となりました。相馬焼は明治時代に入っても繁栄を続け、明治4年(1871年)の廃藩置県により藩の支援がなくなった後も、海外にも輸出されるなどして活気を見せました。

しかし、近代化の波や戦後の混乱により一時衰退しましたが、1978年には国の伝統的工芸品に指定され、復興の道を歩みました。現在は原発事故の影響もあり、一部の窯元が再開したものの、その歴史と技術は今も受け継がれています。

大堀相馬焼の魅力

大堀相馬焼は普段使いの焼き物として親しまれています。一般的な焼き物では、熱が容器全体に伝わってしまい、熱くなりがちですが、大堀相馬焼の二重焼きは外側が熱くなりにくいため、安心して持つことができます。また、冷たいものを入れたときに結露が起きにくいというのも特徴的です。また理由は後述しますが縁起の良い焼き物として贈り物などにも適しています。

大堀相馬焼の特徴

青ひび
青ひびは、素材と釉薬の収縮率の違いから生じる貫入(かんにゅう)技法によって表現されます。

貫入とは、焼成時に素地と釉薬が収縮する速度が異なることで、釉薬が縮む際に割れることなく、釉薬表面にひび割れ模様が生じる現象です。このひび割れ模様が、青く透き通った美しい模様となります。青ひびは、大堀相馬焼の象徴的な特徴の一つとされ、作品に深みと味わいを与えています。

また、貫入が起こる際には、ガラス風鈴に似た透き通った音が放たれることも特徴の一つです。この音は、地元の福島県いわき市内で選定された「うつくしまの音30景」にも選ばれるなど、その美しさが評価されています。

青ひびの模様は、釉薬の種類によって異なる色や表情を見せます。青釉薬(磁釉)が一般的に使用されますが、灰釉、あめ釉、白流釉なども使われることがあります。また、貫入によって生まれるひびの柄は、一つとして同じものはなく、それぞれの作品に独特の表情を与えています。

二重焼き
「二重焼き(ふたえやき)」は、内側と外側をはめ込んである二重構造を持つ器の製法です。この二重構造により、保温性や保冷性に優れており、熱い飲み物を入れても冷めにくく、逆に冷たい飲み物を入れても結露が付きにくくなっています。また、熱くても手に持ちやすくなるという利点もあります。

二重焼きには特徴的な装飾として、器の側面や底に設けられたハートマーク型の穴があります。この穴は、浜千鳥が海辺で遊んでいる様子や浜千鳥の足跡を表したものであり、千鳥⇒千取りという言葉に通じ、勝利と豊かさを象徴する縁起の良い柄とされています。

馬の絵
大堀相馬焼の「馬の柄」には、左側を向いた馬が描かれており、左馬と馬九行久柄の2種類があります。

「左馬」柄
左に向かって走る馬が一頭描かれています。このデザインは、右に出るものがいないという縁起の良い意味があります。つまり、他の競争相手を意識せず、自分の力で進んでいく強さやパワーを象徴しています。勝負事において運気を高めたい人にとっては、良いアイテムとされています。

「馬九行久(うまくいく)」柄
こちらは、左を向いた九頭馬が描かれた柄です。九頭馬は、九つの運気(勝負運、金運、出世運、家庭運、愛情運、健康運、商売繁盛運、豊漁豊作、受験合格)を表しており、幸運と繁栄を象徴しています。この柄は、幸せを呼び込み、すべてのことがうまくいくように導いてくれるとされ、風水グッズとしても人気があります。

大堀相馬焼の代表的な窯元

松永窯
松永窯は、300年続く福島の伝統的工芸品『大堀相馬焼』の窯元です。 伝統を守りながら次の100年の文化と歴史を残し続けていきます。



いかりや窯
江戸時代より現在まで代々続く「大堀相馬焼」の窯元です。創業より約330年、浪江町大堀で陶器作りをしていましたが2011年の東日本大震災に起きた原発事故により福島県白河市に避難。2013年に大堀相馬焼作りを本格再開し現在に至ります。

陶吉郎窯
2023年の現代工芸美術家協会主催の第61回日本現代工芸美術展で、陶吉郎窯の近藤賢さんの作品「innocent blue(イノセントブルー)」が、現代工芸理事長賞を受賞。現代の大堀相馬焼を牽引する存在です。

現代の大堀相馬焼

従来の形にとらわれない陶吉郎窯の「innocent blue」のように新たな作品も生まれています。また、従来の作品も縁起物として根強い人気です。

大堀相馬焼の陶器市ー「大せとまつり」

2024年5月3日、大堀相馬焼「登り窯まつり」が14年ぶりに福島県浪江町で開催されました。組合所属の窯元が作品を販売する「大せとまつり」も同時に開催されました。

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