季節と食卓(4月 卯月)

卯月 予祝の花見酒

桜の花を愛でながらお弁当や酒を囲み、春の訪れを寿ぐお花見。そもそもは古来日本の農耕儀礼の一つで、「秋の豊作を前もって祝う『予祝』だった」とも言われています。

満開の桜をたわわに実る稲穂に見立て五穀豊穣を前祝いすることで、その願いが叶うことを祈ったのです。人々は、桜を「サの神(田の神)のクラ(神座(かみくら))」、つまり、神が宿る依代と崇め、その桜の木の下にお神酒(みき)を供え、そのお下がりをいただきました。ここに花見と酒の所縁が見て取れます。

他方、美しさと儚さを併せ持つ桜は、しばしば人の生涯や死生観と重ねて語られます。

    散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 
    花も花なれ 人も人なれ

「桜は散る時を知っているからこそ美しい。 私もそうありたい」細川ガラシャが、自分の宿命を受け入れ、自害への覚悟を詠んだ辞世の句ですが、「限りある命だからこそ、人も桜のごとく精一杯美しく咲きたいものだ」とも思わせてくれます。

花見の起源が、五穀豊穣の予祝であるならば、そこに「人生の豊穣」を重ね合わせることもできるでしょう。互いの夢や願いを語り合い、それが叶った時の喜びを前もって祝う、そんな予祝の花宴は、きっとその夢を引き寄せてくれるに違いありません。

 桜花爛漫 人生爛漫

予祝の花見酒で乾杯! 

〈今月の寄物陳思〉

・桜花で描かれた青海波の帯は、散った桜の花びらが川面を流れる「花筏」の見立て。青海波は、無限に広がる波の紋様に、人々の平安な暮らしや幸せが未来永劫続きますようにという願いが込められています。
・器は全て輪島塗。124の工程を重ねて完成し、百年二百年と受け継がれていく輪島塗は、圧倒的な「器の力」を感じさせ、自然の恩恵、人生、継承など多くのことを物語ってくれています。

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