「信楽焼」とは? 特徴や魅力、窯元や陶器市情報

信楽焼の起源と歴史的変遷

信楽焼の歴史は、約750年前の鎌倉時代中期にさかのぼります。始まりは、壺や鉢などの日用必需品の製作から始まりました。初期の信楽焼は、小規模な穴窯と呼ばれる窯を使って焼かれました。

紫香楽宮の造営をきっかけに、信楽地方の良質な土と地理的な利点が結びつき、瓦焼きから信楽焼の原点が始まりました。その後、茶道の発展とともに茶道具としての信楽焼が評価されるようになりました。茶陶としての特性から、茶壺や茶器が盛んに制作され、わび・さびの味わいが現代に受け継がれています。

室町時代に入ると、茶の湯の興隆により茶器の需要が増え、信楽焼は茶道具の製造に注力しました。江戸時代には窯の形態が変わり、大量生産が可能な登り窯へと移行しました。商業の発展とともに、徳利や土鍋などの生活用品が造られ、さまざまな信楽焼のアイテムが広まりました。

信楽焼は特有の土と焼成方法によって、風合いや粗い質感が生まれることで知られ、その美しさが評価されました。独自の特性を生かして、花器や食器、庭園用品、置物、タイルなど、多岐にわたる製品が生み出されました。

1976年、信楽焼は国の伝統工芸品として指定され、その歴史的・文化的な価値が認められました。特に、「狸」の置物が信楽焼の代名詞として広く知られています。

今日、信楽焼は約1200年の歴史を持つ六古窯のひとつとして、日本の陶磁器文化において重要な存在です。その多様性と美しさは、日本国内外で広く愛されており、陶器の町としての信楽の名は広まっています。

信楽焼の魅力

土の奥深さ
信楽焼は、特別な粘土や原料を組み合わせることで、土そのもののコシと肉厚な質感を生み出すことができます。この土の特性によって、大型の作品や立体的なデザインが可能となり、信楽焼独特の迫力ある作品が制作されます。

鮮やかな色彩
焼成の過程で発色するピンクや赤色、そして緋色といった赤褐色系統の火色は、信楽焼の美しさを引き立てます。土の特性と焼成方法によって生まれる火色は、窯あじと呼ばれ、微妙な変化が作品に深みを与えています。

温かみのある表情
信楽焼の焦げや釉薬の効果によって、作品表面には温もりが宿ります。素朴な質感と土の風合いが共鳴し、作品が一つ一つ個性的な表情を持つこととなります。この温かみは、陶磁器としての信楽焼ならではの特徴です。

焼成技術の粋
焼成の際に生まれる焦げや窯あじは、信楽焼の焼成技術の集大成と言えます。微妙な温度と焚き方による色の変化、焦げの位置や形状の違いなど、窯師の技術と経験が作品に独自の価値をもたらします。

多様な作品の幅
信楽焼はその土質と技術によって、大きな水瓶や壺から細かな装飾が施された小物まで、多様なアイテムが創られます。土の特性に適応した多彩なデザインと作品の幅広さが、信楽焼の魅力の一翼を担っています。

たぬきの置物

信楽焼の代名詞といえば「たぬきの置物」ですが、なぜ「たぬきの置物」のイメージがこんなにも広がったのでしょうか。

たぬきは、「た(他)」「ぬき(抜く)」という語が含まれることから、「他を抜く」という意味や、「太っ腹(腹鼓)」に関連する意味合いを持ちます。そのため、縁起の良いシンボルとして店先に置かれるようになりました。

信楽焼のたぬきが全国的に知名度を得た転機は、1951年(昭和26年)の昭和天皇の信楽行幸でした。信楽の町では、日の丸の旗を持った信楽たぬきを並べて昭和天皇を迎えた際、昭和天皇は大変喜ばれ、詩まで詠まれました。この出来事が報道されると、信楽たぬきが全国的に注目されるようになりました。

この歴史的な出来事により、信楽たぬきは信楽焼の象徴として広く認知され、特にたぬきの形状を持つ陶磁器が多く制作されるようになりました。たぬきはその愛らしい姿と縁起の良い意味合いから、信楽焼の作品において重要な要素となり、多くの人々に親しまれる存在となりました。

信楽焼の釉薬とその特徴

以前は、釉薬を使わない焼き締めや、土灰、わら灰などの灰釉が中心でしたが、近年ではいくつもの色のある釉薬が使われるようになっています。

自然釉 (ビードロ釉)
自然釉は、登り窯や穴窯で焼成する際に、薪の灰が焼きものの表面に積もり、土に含まれる長石と化学反応を起こすことで、青緑や黄緑色のガラス質のよどみを作り出す現象です。この釉薬の効果によって、窯変とも呼ばれる美しい変化が生まれます。灰が流れ出すことで「玉垂れ」と呼ばれる筋模様ができたり、微妙な焼成条件によって異なる変化が現れることがあります。自然釉は信楽焼の作品に風合いを与え、その土の質感と絶妙な釉薬の相互作用が魅力です。

海鼠釉
海鼠釉は、その名の通り海鼠のような色調を持つ釉薬です。この釉薬は、失透釉と呼ばれる二重掛けの技法を用いて施されます。白濁色を基調とし、信楽焼の特色である火鉢などの作品に多く利用されてきました。その美しい釉色と特異な質感から、海鼠釉は信楽焼の代表的な釉薬として広く認知され、作品に独特の雰囲気をもたらします。

信楽焼の代表的な窯元

明山窯
創業は1600年頃とされる古い窯元で、カフェでは信楽焼の器を使用したドリンクや手作りの季節ごとのケーキセットなどが楽しめます。ショップ&ギャラリーでは明山窯を中心に四季折々の焼物を鑑賞・購入でき、アトリでは陶芸教室も体験可能です。

堂本陶工房
古谷信男氏の指導のもとで13年間修業し、その後独立されました。伝統的な釉薬と信楽の土の存在感を重要視しており、うつわの形には和の要素がありながら、ふちにフリルなど女性らしいフォルムが特徴です。


古谷製陶所
古谷製陶所の後継者として素朴で優しい表情のうつわを制作しています。独自の土と粉引きの技法を用い、模様や色合いがほっとする雰囲気の器は女性に人気があり、日常にくつろぎをもたらすデザインです。高温の焼成を2度行うことで、電子レンジ使用可能な丈夫な品質を提供しています。

文五郎窯
「文五郎窯」は信楽焼の中でも非常に人気のある窯元で、その洗練された作品が注目を浴びています。兄である奥田文悟さんと弟である奥田章さんによって運営されており、それぞれが異なるタイプの作品を制作しており、窯元全体で幅広いアプローチを展開しています。

現代の信楽焼

渋いイメージの信楽焼ですが、現在は若い作家さん達が様々なアプローチで変化を加え、カジュアルなものやモダンなものなど普段の食卓で使いやすい作品を生み出しています。一見ヨーロッパのアンティークのような作品も実は信楽焼、ということがあります。

信楽焼の陶器市ー春のしがらき駅前陶器市・信楽陶器まつり

「春のしがらき駅前陶器市」はゴールデンウィークに「信楽陶器まつり」は10月に開催されます。陶器の販売のほか、地元のおいしい食べ物販売もあります。

まとめ

「たぬきの置物」のイメージが先行する信楽焼ですが、実はとっても素敵な作品を作る作家さんがたくさんいます。丈夫なのものが多いので普段の食卓に取り入れてみてはいかがでしょうか?

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